「死にたいと思ったんです」そう話す彼女の表情は、先ほど挨拶をしてくれた時と変わらず可愛らしい笑顔のままだった。
死ぬことから始まった彼女の新たな人生とはどんなものなのか。
生と死の間で生きる儚げな”2才”の物語。
絶望からのスタート
好きなことやってから死のう
私出身は青森で、親の猛反対を押し切って大学進学と同時に上京してきました。
その時入学した大学で色々あって、休学してる時に今の大学の教授に編入という形で引き抜かれて、法律の勉強を始めました。
法律は難しいけどもともと勉強は嫌いじゃなかったし、夢中になれそうだと思って入ったんですけど、いざ入学してみると周りのレベルが違いすぎて、いつの間にか置いて行かれちゃいましたね。私は司法試験とかちゃんと目指してるわけでもなかったので。
それに、前の大学で人間関係があまりうまくいかなかったので今の大学では友達作りも頑張ろうと思ってたんですけど、サークルも何も入らなかったのできっかけもなくやっぱり1人のままでした。
友達もあんまりいない、学校の勉強にも難しくてついていけないってなった時、自分何してるんだろってふと死にたくなったんです。
なんとなく私の中では死はいつも近い存在だったんですけど、この時からはっきりと死を意識し始めました。
でもどうせ死ぬならじゃあ好きな事やってから死のうって思って、昔から大好きだったお笑いを始めたんです。
私、小さい頃すごく暗くて。それこそ勉強はある程度できたんですけど、女子特有の群れる感じとかが苦手でその頃から1人だったんです。もちろん友達は欲しかったし、みんなと外で遊びたかったんですけど、なんかうまくいかなくて。そんな寂しさを忘れさせてくれるのがお笑いでした。
それに今勉強してる法律は絶対的なルールだけど、お笑いってそういうのないじゃないですか。そんな環境もあって余計お笑いの世界に憧れて。自分も芸人になろうと思いました。
コントの設定ってことにしちゃえば、私は弁護士にも総理大臣にもアイドルにもなれるんですよ。すごいですよねお笑い芸人って。しかもそれが誰かを笑顔にできたりするんですもん。
そういう治外法権大好きなんです。
大好きなお笑いを通して今までなりたかった私にもなれるんですもん。夢がありますよね。
芸人以外の活動
今芸人以外にもやってる活動が被写体・グラビアアイドル・物書きです。
被写体は完全にスカウトされて始めたんですけど、写真自体も、撮っていただくのも好きだったので。
でも今年中にフォトエッセイみたいなものを出して被写体は一旦卒業しようかと思ってます。
有難いことに今被写体でのお仕事が1番多くて、でもあくまでも私はお笑い芸人なので、一旦辞めます。
グラビアの方は、今お金を頂いてやっていて、それをお笑いの活動に回したりしてるので大事な資金源というか。
しかもただ普通にお笑い芸人よりも”グラビアやってるお笑い芸人”の方がパンチありません?だから芸人活動に繋がるかなと思ってやり続けてますね。
お笑い芸人さんって多分、一般的な人が想像する以上にいっぱいいるんですよ。そんな中で埋もれないように芸を磨くことも大事だし、でもまずは見てもらえるようなインパクトがないといけないと思っているので。あまりいないであろう”グラドル芸人”ってカテゴリでやってますね。
物書きは、今はお仕事というよりかは趣味でやってるんですけど、WEB上で割と長い詩や文章を公開してます。昔からそういうのが好きで、高校生の頃とか3年間かけて小説書いてました。賞も引っかかったり、結構評価してくださる方が多いんです。
なので被写体卒業フォトエッセイも私の写真と私の詩をちょっと入れ合わせるような形にしようと思ってます。
好きなお笑い芸人は…自分
私、好きなお笑い芸人さんって日によって変わるんです。気分によってツボも変わるし。でもいわゆるB級お笑いが好きで。
でも、結局お笑い芸人さんで誰が好きなんだろうって考えたら、自分かもしれないって思ったんです。私の好きな芸人さんのいろんなところに影響を受けているので、その集大成が自分だって。それだと、自分が1番面白いってことになりません?
だから誰が好き?って聞かれるたび”自分”って言ってます。
でもそういうB級お笑いって、万人受けはしないというか。みんながみんな笑うものではないんですよ。個性が強めで、好き嫌いがはっきり分かれる。
だから面白くないっていう人の気持ちもすごくわかります。客観視はしてるんです。でも、私はそういうお笑いが小さい頃から大好きだから、今自分がやってる路線もそんな感じですね。
まあでもやってる路線がそういう個性強いお笑いなのでよくスベります。(笑)
スベると普通に悲しいですし次出るの怖いなとか思います。でもやっぱりウケた時の喜びがあるから、続けちゃいますね。小さいころめちゃくちゃ暗かった人間が単純に人を笑顔にできたと思うと本当に嬉しいです。
それに私、みんな好きだろうなって芸人さんも好きです。ノンスタイルさんとかナイツさんとか。嫌いっていうお笑いが全然なくて、結構幅広く好き。多分もうお笑いってカテゴリーが好きなんです。生粋のお笑い好きなんですよね。
新しい自分
「見返してやる」
私今年成人式だったんですよ。式のために久しぶりに地元に帰って中学の頃の同級生とかと会ったら「死んだかと思ってた」って言われました。
SNSも全然繋がってなかったから生存確認できなくて、死んだかと思ってたって。すごくショックでした。それくらい暗い子だったんですよね。だから式終わってからすぐ帰りました。
式の後の同窓会みたいなのも行きたかった。でも誘われなかったので。寂しかったし悲しかったです。
だからそういう暗い私を知ってる人を見返したいって気持ちがすごく強いですね。
それに、死んだと思ってたやつがテレビ出てるとか面白くないですか?
芸人も芸人以外の活動もそうですけど、死にたいと思って始めたものなので、気持ち的には1度死んでるんです。転生してるような感じ。だからあながち同級生に言われたことは間違いじゃなかったかも、と思いました。改めて考えてみれば。
同級生が知ってる私はもう死んでるんですよね。
だから地元の子とか、私がお笑い芸人になるなんて全く思ってなかっただろうし、もしかしたら今も信じないかもしれないです。それくらい変わりましたね。
私自身も名前で活動するのをやめて”2才”で生活するようになってからはいろんな意識の変化もあったので変わったんだと思います。
初めてのギャラ
お笑いできる地下の箱って意外にいっぱいあるんです。ゴールデン街とか、中野とか。
まずこういうライブがありますよって告知が芸人界隈の中で情報が張り出されて、エントリーして。それからエントリー料を払って何人かお客さんを呼んで、それでやっとライブ。でも私は今お客さん呼べる状況にもないのでノルマがない箱に出させていただいてます。
でも1回だけ、バックもらったことがあったんです。バックってお客さん呼んで初めてもらえるものなんですけど、ライブ終わった後スタッフさんに呼ばれて何だろうって思って行ったら「はい、これ今日のギャラです」って渡されて。
私、お客さん呼んでないのに、誰かが私の名前で来てくれたみたいで。バックとして500円もらったんですよ。めっちゃくちゃ嬉しくてそれ。何ヶ月も前のことなんですけど、まだそのままとってあります。
本当に嬉しかった。ツイッターとか見て来てくれたのかもしれないです。
誰なんだろうって気になりますけど、でも知らなくてもそれはそれでいっかなーって思って詮索はしてません。でも本当に嬉しかった。ありがとうございます。
でもお笑いで私あんまりお金稼ぐことは考えてないんですよ。今は。楽しくて仕方ないって感じなので。でもゆくゆくはそうもいかなくなってくるんだろうって思うんですけど。
今は呆然とある不安より、来週のライブのこととかを考えていたいですね。
自分と交換ノート
詩の他に小説とかも書くので、起承転結つけるのは得意なんですけど、そこにどうやって笑いを組み込むかみたいなとこが難しくて。段落立ててこういうことになって笑いが生まれてとか。
へたくそなんですよ、ネタ作るのが。だから一時期先輩に書いてもらったりしてましたね。
1発ギャグとかは思いつくんですよ。瞬間風速しかないみたいな感じです。
やっぱり物書くのとネタ作るのは全然違いますね。その切り替えというか、適応が難しいです未だに。
でもピンでやってるとそういう苦悩とか分かち合う人もいないし、自分が行き詰まったらもうそれで終わりなんです。周りの先輩方にアドバイスいただいたりもするんですけど、やっぱり舞台に立つ時は1人なので。
そういう意味では相方が欲しいと思ったりしますね。自分のネタを新しい目線で見てくれる人が欲しいって思います。
それに私コンビ芸人に憧れたきっかけがあって。
「火花」あるじゃないですか。ピースの又吉さんの。
その中で相方と交換日記してるシーンがあるんですけど、それにめちゃくちゃ憧れました。
でも私ピンだからやりたいけどできない、どうしようって思った時に”自分と交換日記しよう”ってなったんです。
本名がまゆっていうんですけど、2才とまゆちゃんで交換日記始めました。
2才が大体めちゃくちゃなネタとか書いたりとかして、「今日こういうネタが思いついたんだけどどうかな?」みたいな感じ。次の日まゆちゃんモードで見て、何だこいつはみたいな感じで。まゆちゃん辛口なんですよ。
辛口というかなんか、高校時代の暗い自分みたいな感じ。まゆちゃんは2才のこと何やってたんだこいつはみたいな感じで、淡々とやってますね交換日記。
喧嘩したりもします。なんなら常に喧嘩してます。まゆちゃんが2才に対していつも怒ってる。2才はちょっとふざけてるので。お前はそんなんじゃいつまで経っても売れないぞっていう。
たぶん客観的に見れてる人がまゆちゃんなんです。
2才の上の人。怖い上司みたいな感覚ですね。
でも、まゆちゃんで書いてる時に2才もたまに入ってきたりするんです。そういうときは付箋に2才モードでネタとか書いて2才のページにパッと貼ってあげて、で切り替えるっていう。
もともと今は2才の時の方が多いので、まゆちゃんが喝入れてくれる交換ノートは支えみたいになってます。ピンでもこういう楽しみ方ができるのは、ちょっと良いなと思いました。
ちなみに未だにやってます。
”好きなこと”のこれから
胸張って親に言えるようになりたい
とにかく売れたいですね。テレビに出たいです。アメトークとか、中高暗かった芸人出たいです。ラジオ番組とかもやりたいですし。
それにまだ両親に今の活動を言えてなくて。絶対反対されるので。まあ反対する気持ちもわかるし。
それこそ親が見るような番組とかに出られたら胸張ってお笑い芸人やってるって言えるかもしれないって思うと、やっぱりそのチャンスもいただけるような賞レースで勝ち抜いて結果残すしかないですよね。
”親に言えるようになる”っていうのが売れたとしてのゴールなのかもしれないです。
あと、私芸人と結婚したいって気持ちがあって。それで”新婚さんいらっしゃい”に出たいんです。新婚さんいらっしゃいで「どうも〜」って芸人夫婦が出てきら面白いと思うんですよね。それこそ夫婦漫才みたいに。
それにYouTubeも始めたいと思っていて。劇場へはなかなか行けないって人にも見てもらえるようにネタ動画も出して。
被写体もグラビアも静止画なので単に映像に興味があるってところもあるんですけど、YouTubeのメインとしてやりたいのは企画物ですね。
パチンコ屋で撮影したりとか、ホームレスとじゃんけんして私が負けたら松屋おごるとか、生活保護受給者の並んでる列にパンをちぎってあげるキリストごっこやったりとか。
そういうの考えると楽しいです。やっぱり輝いてて夢があるなって思います。お笑いの世界は。
この世界に限ったわけじゃないと思うんですけど、自分次第なところありますよね。モチベーションというか、発想ってどこまでもあるじゃないですか。
それに、ありきたりかもしれないけど人を笑わせる仕事ってお笑い芸人以外にそんなにないと思うんです。すごい素敵な仕事だと思いますね。そんな端くれに自分がいるのが嬉しいです。
お笑い芸人って楽しい
趣味というか、1人でプリクラ撮るのが好きで。
今までもライブに来てくれた人にあげたりとかしてたんですけど、なんかそれが被写体活動に繋がった感じです。どうせならちゃんと撮ってもらいたいって思うようになって。
あと、現場大好きなので吉本とかの劇場に行ってます。学校帰りとか、嫌なことあってすごい落ち込んでる時とか、むしゃくしゃしながら行って、めちゃくちゃ笑って帰るのが好きですね。
別にいきなり入ります。今日やってんじゃんみたいな感じ。
最近見た中で面白かったのは、”虹の黄昏”という芸人さん。地下芸人の帝王って呼ばれたりしてるほど結構アツい芸人さんで。
本当めちゃくちゃ暴れるんです。い伝わらないと思うんでメンバーの名前だけ聞いてほしいんですけど、メンバーの名前が「野沢ダイブ禁止」と「かまぼこ体育館」っていう方で。名前で芸風をちょっと察して欲しいんですけど、めちゃめちゃ面白いんですよ。
その日は虹の黄昏さん見てめちゃくちゃ笑って帰りました。
この前のM-1で出てたトムブラウンさんも面白かったです。1番面白かった、ダントツで面白かったです。
トムブラウンさんはめちゃくちゃ面白いし、あれを見て「何が面白いの?」って言う人の気持ちもすごい分かる。どっちも分かるけど私は大好き。
ああいうお笑いってもう、根強くないですか?好きってなったらもうずっと好きなんですよね。個性派芸人の強みですよね、やっぱり。
客観的には見てる。本当にお笑い好きなので私。
この世界の一部になれてることが嬉しいです。
それに芸人仲間が増えたりすると本当に人生が豊かになったと思いますね。お笑いやってて良かったって思う。
でも、私もそうなんですけどお笑い芸人って舞台の上ではギャーギャー騒いでても、実際暗いみたいな人も結構いるんですよ、そういうやついじればいじるほど面白くなるんですよね。
だから終わった後打ち上げでいじり倒したりとか、あーでもないこーでもないって反省会したりして。お笑い談義。それがまた楽しいですね。
死は常に隣にいる
今すごく恵まれてて好きなことをやれているので楽しいんですけど、死は常に隣にありますね。だから何でもできる。もう死ぬからいいやみたいな気持ちでなんです。
変なのかもしれないですけど、どうせ死ぬからいっかって気持ちでいると楽になるというか、強くなれるんです。
常に死を意識してるからいろんなことに限りがあることも分かっているし、逆にどんなことに対しても大らかになりましたね。
幼少期から大学2年まで、ずっと孤独を感じていた私が今こんなに明るい世界で人を笑わせる仕事をしているなんて。
改めて、自分でも驚きますね。真反対の正解だったはずなのに、なんか落ち着くんです。しっくりきたというか、私の居場所があったって感覚です。
そんな場所を見つけられたことで、やっと私の人生始まったんだって思いました。
独りじゃない
幼少期からずっと1人だったと話す彼女だったが、その表情からは”孤独”の苦しみや悲しみはあまり感じられなかった。彼女は芯を貫いた結果1人に成ってしまったのだ。
周りに合わせるのが苦手、群れるのが好きじゃない、でも自分のやりたいことはやる。死を覚悟した人間はこんなに強く逞しくなるのかとハッとさせられた。
”20代で好きなことはやり尽くして30歳前に死にたいです”という彼女にとって、今は余生そのものなのだろう。
そんな彼女が繰り広げる”笑い”がこの世界に少しでも広く浸透しますようにと心から願っている。
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