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モデル・よし井梨子が語る、被写体としての表現とは

FASHION

2018.12.27

生活のなかでモデルを見ない日はあるだろうか。電車の広告や雑誌の表紙、美容室の看板など、あらゆる場所でモデルがいて店舗や商品に合わせた表情をつくっている。

それらが商品だとするなら、モデル・よし井梨子の写真は「作品」だ。

写真を通して自己表現を続ける彼女。モデルだからこそできる表現とは。

活動の原点やコンセプトなどについてインタビューをした。

「パニック障害」が表現の原点に

人生の転機は高校生のとき

子どものころは、とんでもなく人見知りでした。

周りの友だちに自分の意見が言えなくて。すぐ同調してしまうんですよ。主体性がまるで無かった。逆にいえば客観性はありましたね。幼いながら自分のことを俯瞰で眺めていました。一人っ子で兄弟がいなかったことも関係してるかも。

それで周りに合わせながら小、中と成長して、人生の転機が訪れたのは高校生のときでした。

大学受験のために勉強に打ち込むんですけど、ストレスでパニック障害になっちゃったんです。学校で何度も過呼吸になってそのつど救急車で運ばれてました。人に出会うのが怖くなったんですよね。だから電車にも乗れない。学校に行くのなんてもってのほか。家から一歩も外に出られなくなってしまったんです。

ずっと部屋にこもっていたときに、あらためて自分を客観的に分析してみようって。「なぜパニック障害になったのか」「自分がやりたいことは何なのか」「主体性をもってできることは無いだろうか」って考え続けていました。

それで「自己表現をしよう」と思ったんです。

でも文章は苦手だし絵が得意なわけではない。それで自分の身体ひとつでできる「モデル」に挑戦してみようって思いました。

もともと母親がファッションへの感性が強くて、小さいころから周りとはちょっと違うというか……。友だちはキャラクターがあしらわれた服なのに、私だけなんか古着っぽいワンピースとか着てて(笑)。その影響で私まで洋服が好きになったんですよ。それもあってモデル。被写体として、自分の世界観を表現しようと思いました。

私は発信したかった

高校3年生の時にサロンモデルをはじめました。

でもサロンの撮影は、すでに”決まっている”んですよね。髪型やメイクはもちろん、構図とか光の当て方とか。世界ができあがっているんです。自分は指示された通りに顔を傾けたり、目線を固定するだけ。だんだんつまらなくなってしまったんですよ。

私は自分の考えを発信したかった。

「作品としての写真」が好きだったので、外に向けて表現をしたくて。それでだんだんと作り手としての意識が芽生えてきました。

ちょうどその時にインスタグラムが盛り上がってきたんですよ。写真とか映像に特化したSNSだからカメラマンも集まりやすかった。「一緒に作品づくりをしませんか?」って募集したら、共感してくれる方が数人いて。そこからサロンモデルではなく「表現するモデル」として活動を始めました。

「素晴らしい生き方を選択できたな」って、はっきり断言できます

高校生のころは人に会えなかったから誰にも相談できなかった。自分で答えを出すしかないんですよ。だから必死に自己分析をする。ひとりで選択をするから、自信が生まれるんだと思います。「モデルをやってみよう。私の選択は間違っていない」って強く思えた。

今は当時に比べて、心に余裕があります。

同い年の友人は就活真っ最中です。でも「特にやりたいことがなくて。惰性で企業を訪問している」っていう話を聞く。私は具体的に表現したいことがあって、まっすぐに進めています。「素晴らしい生き方を選択できたな」って、はっきり断言できますね。

テーマは「葛藤」。だから表情に「強さ」を

高校生の時の経験が活動の原点に

自分が写真を通して伝えたいのは「葛藤」です。

パニック障害になった高校生の時の経験が活動の原点になっています。学校を辞めて通信制の高校に入学したときに「これからどうするべきだろう」って。人前に出て生活したいけど、怖くてできない。パニック障害を認めなきゃいけないけど、認めたくない。こうした「葛藤」を表現したいんです。

だから「前後のストーリーを想像できる写真」が撮れたときは嬉しいですね。

壁にぶつかるまでの過去と悩む現在、苦しみを乗り越えた未来。物語が想像できる1枚を撮れた瞬間は達成感があります。

私の表情は世界中で私にしかできません

良い写真を撮るためには撮影前の準備が重要です。カメラマンの方やヘアメイクさんと打ち合わせをする時間は大切にしています。パートナーとゼロから作品をつくる過程はすごく楽しい。

特に服にはこだわりたいですね。コーディネート的な視点でも表現的な意味でも、ちゃんと理由があって服を選んでいます。撮影の前にちゃんと準備ができるから、写真に力が宿ると思うんです。

撮影で意識しているのは「強さ」を出すこと。

葛藤があっても自分を信じて選択できる「強さ」を表現したいんです。モデルの感情は写真に出ます。弱気だったら写真も弱くなる。だから自信を持って、全部さらけ出すつもりで挑んでいます。

できあがった写真を確認すると「こんな顔もあるんだ」って驚くんですよ。

自分の身体は自分だけのもの。私の表情は世界中で私にしかできません。撮影のたびに自分の可能性に気づくんですよ。それがモデルのおもしろいところですね。

「憧れ」はオリジナリティの喪失だ

「今の自分からどう進化するか」を考える

誰かに憧れることはありません。

もちろん雑誌やSNSで偶然、同世代のモデルさんを目にすることがあります。自分にないものを持っている人は、ちょっとだけ羨ましくなるかな(笑)。でも「それでどうするんだ」って思う。憧れたらオリジナリティがなくなる。

だから「彼女たちの見せ方」を分析して「もし自分だったら……」って比較します。私にも武器がありますから。「誰かになりたい」じゃなくて「今の自分からどう進化するか」を考えることを大切にしてる。

実際モデルを始めて交友関係が広がるにつれて、個性が伸びています。高校の時は自分だけで答えを出していた。でも今は違う。カメラマンやヘアメイクさんと会話してプランを決めていく。視野が広がったしモノの見方が変わりましたね。出せる表情も豊かになっています。

映像にも挑戦して、「やりきる」までは進化を続ける

もっと内面的な部分も知ってほしい

2018年の9月に下北沢で個展を開催したんですよ。

タイトルは「無/有」。15人のカメラマンにモデルとしてのオンとオフの表情を撮影してもらいました。新しい気付きがあったし交友関係も広がったので、これからも開きたいですね。

今ってSNSが流行していますけど、どうしても表面的な部分しか見えないじゃないですか。だから薄い関係が広がっていく。それじゃいけない。私は顔を合わせてコミュニケーションをとって、もっと内面的な部分も知ってほしいなって思います。

限界を決めると、つまらなくなる

表現活動にはっきりとゴールは設定していません。

目標というか限界を決めると、つまらなくなる。だから納得いくまで続けたい。どこかで答えが見つかると思います。「やりきった」って踏ん切りがつくはずなので、それまでは続けますね。

写真だけでなく映像にもチャレンジしたいと考えています。表現の幅が広がるし、新たな自分の可能性に気付けそうなので。これからも被写体として、マイペースに感情を表現し続けますよ。

「能動的なモデル」としてのハングリー精神

取材前「モデルは被写体だから受動的な職業だ」と決めつけていた。取材が終わってそんな自分を恥じた。よし井さんはどこまでも能動的に、自分の道を突き進んでいたのだ。

「自分で選び方を決めた」。彼女は淡々と、ときに言葉を選びながら話す。しかしその眼差しには貪欲なエネルギーがある。「もっと進化したい」という成長意欲を感じた。

まだ21歳。彼女のキャリアは始まったばかりだ。これからどのようなクリエイターやアーティストと出会い、表情を変えてゆくのか。今後とも作品が楽しみで仕方ない。

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