暮らしに、もっとサブカルを。アンダーグラウンド総合WEBマガジン

開かれた殺陣文化を提唱する 殺陣パフォーマー村尾敦史

SPECIAL

2018.12.20

『殺陣』のイメージはどのようなものだろうか。張りつめた空気、緊迫感。恐らくエンターテイメントとは真逆にあるように思う人が多いだろう。

しかし、今回殺陣パフォーマーの村尾氏に話を聞く中で、『殺陣』のイメージはどんどん変化していく。

目の前にいる彼は非常にソフトで、少年のようにキラキラと殺陣パフォーマンスについて語ってくれた。

殺陣をもっと身近にわかりやすく

戦っているように見せるエンタメ

殺陣パフォーマーって一応名乗らせて頂いていて、中心な活動としては『偉伝或~IDEAL~(イデアル)』という殺陣パフォーマンスチームの活動や、あと個人ではちょっと厳かな剣舞とか、あと他に一人でもできるような少しエンタメ色の強い剣を使うソロパフォーマンスなどの活動をしています。

殺陣っていうのは刀や剣を用いて戦ってるように見せるエンタメだと思うんですね。

今殺陣ってものの使われ方が世間では中心的にはお芝居などがメインなんですけど、そういったものではないパフォーマンス、エンタメとして殺陣を見てもらうものとしてやるのに、僕は俳優としてではなく殺陣パフォーマーって名乗らせて頂いてます。

所属しているイデアルという殺陣パフォーマンスチームでは、自主公演やパーティー・イベントに出演したり、他には殺陣の教室もやっています。

YouTubeのコメント欄がアンチで炎上

YouTubeで曲抜きっていうタイトルの曲芸みたいな動画を上げてるんですけど、今30万再生くらいいってるんです。

チャンネル登録者名やコメントを見る限り、20万再生あたりまではまだ日本人の方の反応がメインだったんですけど、最近はコメントにも少しずつ英語が増えてきたので、海外の方も見始めているみたいです。

『かっこいい抜刀納刀まとめ』っていう動画のタイトルにしたんですけど、分かりやすくて良かったのかもしれないです。

思ったより反響があったんですよね。たまにあれを教えてくれって言ってくる人もいるくらいで。

実はこの動画、コメント欄見るとアンチで炎上してるんです。

曲抜きってタイトルの通りなんですけど、本人ももちろん実戦的じゃないって百も承知でやってるんです。お遊びなんで。

けど日本文化をああいうライトな扱いすることに噛み付く層ってネットにすごく多くて。本人痛くもかゆくもないんですけど(笑)

よくあるのは日本刀はそんな扱いしないとか、実戦的じゃないとか、そんなことやってる間に切られるとか。全部に反応してもいいんですけどめんどくさいんでしませんけど。

全否定しちゃうのって、文化の発展をすごく頭打ちさせてると思うんです。

刀の扱いも今残ってる扱い方ってもちろん正当としてあって、それを否定する気はさらさらないんですけど、伝わらなかった色んな扱い方があったはずなんですよ。

邪道とされてる、粗雑な扱い剣してた人だって山程いたはずなんです。

古い流儀や文化を守るとかいうのはすごく大事なことなんですけど、新しい考え方とか流儀とかを入り口からはねちゃうのは文化の発展的にはたぶん逆行する話だと思っていて。

人見知りで内気だった

熱量の原点は戦いごっこ

神奈川県の大磯町っていう海と山とロングビーチしかないところで生まれました。

家族っていうか家系で、人前で芸事やる人間ってひとりもいないんですよ。

父親とかは「俺は芝居に出るくらいなら死ぬ」って言ってますからね。それくらい人前で何かやるとかいうのは好きな家系ではないんです。

両親は未だに僕が何をやってるのかピンと来てないみたいですね。

男三人兄弟の末っ子なんです。上に兄が二人いて、なので負けず嫌いだったと思います。末っ子の特性として。

男の子兄弟なんでわーきゃー言いながら走り回って遊んでた記憶がありますけど、でもどっちかって言うと性格的には人見知りな内気なタイプでしたね。

子供の頃は戦いごっことかチャンバラは好きだったと思います、たぶん。

男の子って大体棒を持って遊ぶと思うんですけど、よくベッドの下に竹の棒みたいなものが置いてあって、寝る前に寝っころがりながら戦いを妄想して「わー!」みたいなのを一人でやってたりしました(笑)

基本的には熱量の原点はそこだと思うんですよ。

登下校の時男の子って必ず傘で戦った経験ありますよね。それで壊して怒られるというワンセットをたぶん誰しも経験してると思うんですけど、その熱量が抜けきれないまま大人になったらこんな感じになりました。

イデアルでの殺陣の活動が、個人的にすごく相性が良かった

大学の部活でで演劇部、お芝居を始めました。そこで初めて人前で何かやることを経験しました。

卒業後は普通に会社員やってたんです。普通に新卒で就職して。

社会人になってからは、その大学演劇部の仲間の絡みで、少しアマチュアでお芝居に関わったり、自分も出演したりして。

その時の人間関係のご縁で、殺陣パフォーマンスチームイデアルのリーダーである川渕かおりに出会ったんですよ。

当時お芝居だけであまり達成感がなかったので、何か武器が欲しいなとかいう思いがあったんですね。

そんな時に川渕が出てたお芝居たまたま観る機会があって、そこで殺陣やってみたいなって思って。

その後に川渕達が殺陣教室がを始めると聞いたので、じゃあ行ってみようというのが始まりですね。

殺陣を始めてすぐ「芝居じゃなくて殺陣一本にしよう」と思ったわけでもないんですけども、イデアルでの殺陣の活動がたぶん個人的にすごく相性が良かったのと、手ごたえがあったんだと思います。

徐々に徐々に演劇から殺陣に移行していった感じですね。

爽快でドラマティックな殺陣の魅力

Photo by Tomohide Ono

緊張感、対峙の空気を出すかってところが殺陣の醍醐味

たぶん普通の人は刀で向き合う経験はないので、説明してもわかりづらいと思うんですけど。

例えば、急に暴漢が入ってきてナイフ持ってこっちを向いてじりじりいつ飛び掛ってくるか分からない状況があるとして、そういう時ってあんまり動いてないけど、すごいすり減らし具合じゃないですか。

あれがたぶん対峙したときの緊張感っていうやつで。そういう風に見せるための表現が必要でなんです。

こう動くところの上に、どういう緊張感、対峙の空気を出すかっていうところが殺陣の醍醐味だと思っていて。

体だけじゃなく、精神力というか気持ちというかね。

対峙した二人がいるとして、その二人の関係性が拮抗した実力の二人なのか、片方がすごく強くてそれに挑んでくような感じなのか、実直な人がすごい強いか、自由奔放な人が縦横無尽に動き回って強い感じなのかとか、主人公がすごく頑張って実力差を覆すか、そういうドラマや人間性が見えてくるんです。

それは自然に出てるものではなく、ちゃんとそういう見せ方をしてます。

どういう立ち方とか振る舞いをすると、どんな風に見えるかっていうところは一応ある程度計算したり、表現としてやってますね。

ぶれずにすっと立ってるとまじめなちょっと上の立場の人なのかなって感じもするし、無駄な動きが多いとちょっと下っ端に見えるし、みたいな使い分けがやっぱりあって。

ここが一応お芝居なんですけど、そこまで考えないとちゃんとショーというかエンタメにならなくて、殺陣単体でやる意味がなくなってしまうというか、ただの振り付けだったらあんまり意味がないので。

プロとしてってなるとそういうところが熱量とか質感とかがお客さんに伝わるとより違ってくるかなと思いますね。

存在をかけたもの同士のぶつかり合い

殺陣の魅力って、男の子が原始的欲求で戦いごっこをしてる爽快感が根っこにあるとは思うんですよ。

それこそワンピース見てる感覚と同じような、戦ってるのかっこいいなっていう爽快感がたぶん根っこにはあってほしいんですよ。その上でドラマとかせめぎ合いとか、目に見えない、でも感じられる空気みたいなものが乗っかってきて。

そういうものを感じた上で見るとまた違った景色が見えてくる。

なんで戦ってるんだろうとか、そういうドラマティックさが見てるとあるんですよ。

結局戦ってるじゃないですか。しかも刃物持って戦ってるじゃないですか。もちろんあれは模造刀ですけど、表現としては真剣で殺し合ってる。それだけ存在をかけたもの同士のぶつかり合いの熱量ってものが、殺陣の魅力かなとは思いますけどね。

子供の頃日常だった戦いごっこっが、大人になると非日常になって、また惹かれるみたいな。

なかなかあの爽快感を大人になっての日常で味わうことないと思うんですよ。

殺陣パフォーマンスとしてはそういうバチバチした戦いとか、あとはもっとライトに見れる剣舞だったり。

戦いの質感としてもライトな雰囲気で爽快感重視で見れるものや、関係性とか空気とかちょっと重く作ってみてのものだったり。

両方使い分けてるんですけど、一方で爽快感、一方でドラマティックさ両方が殺陣の魅力だと思いますね。

イデアルでは海外にも進出

Photo by Yumika

エンタメショー的な演目とストーリーもの

今活動しているイデアルでは、結構どこでも行くんですけど、イベントや式典、お祭りなどに多くのオファーを頂いてます。

あとは和楽器奏者がやってるロックバンドとか仲がいい人が結構いるんですけど、そのライブとかのバンドさん主催のイベントなどでにゲスト出演などがが多いですね。

殺陣パフォーマンスの団体さんが集まるイベントなども毎年ありますね。

イデアルの演目はざっくり2パターンあります。

一つははパーティーやイベントなどでのアトラクション系でやるのは、曲に合わせて戦ったり踊ったりするようなエンタメショー的な演目。

二つ目はストーリーものですね。ほとんど喋らないんですよ。言葉無しでなるべく伝わるような構成にして、そのストーリーの中で戦いをしてくっていうような演目です。

ここ2年くらいは後者のストーリーのほうが多いですね。

ストーリーの雰囲気はちょっと残酷で切ないというか。大体いつも登場人物全部死にます(笑)いや、これ怒られますね。それが目的じゃねえよって。

地球の裏側でドラゴンボールを大合唱

3年前位に、フランスで開催された『JAPAN EXPO』という大きい祭典に出演させて頂いたんです。

続けて去年はチリのサンティアゴで開催された『ANIME EXPO』にも呼んでいただきました。

海外はまだ2回ですけど、どちらもすごい手ごたえがありました。

サンティアゴは地球の裏側だったんですけど、そこの人達が日本のものを好きな人が結構いてくれて、喜んでくれたんです。すごい嬉しかったですね。

チリでびっくりしたのが、スペイン語版のドラゴンボールの主題歌を歌ってる人が、メキシコ人の方らしいんですけど、イベントに出演していて、例のチャーラーヘッチャラーってのを会場中大合唱してたんですよ。地球の裏側で。

ちょっと会場揺れるくらいのすごい大合唱で、しかも盛り上がるから同じ曲何度も歌うんです。

地球の裏側でこんなにドラゴンボールが、日本のものが分かる人たちがこんなにもいるんだって。びっくりしちゃって。

常に何かトラブルがあることを想定してる

イデアルが行くと気候が荒れるみたいなちょっとジンクスができ始めていて。

フランスに行ったときはパリが60何年ぶりの熱波だったり、チリ行った時も着いた日がすごい嵐で大雨だったんです。

雨男雨女とかじゃなくて、異常気象を呼び込むみたいなジンクスが若干あるみたいで。

ある程度トラブルあるだろうって前提のところはあって。それをいかにミニマム化していくか、もしくはある前提であったらどう対処するかみたいな脳みそが必ずありますね。

イデアルの初期の頃、ステージ前にトラブルマネージメントの時間があったんです。

まず剣が折れたらどうするか、予備の刀どこに置いとくからみんなちょっと覚えといてねとか、あと音響さんにこのタイミングで流してとか止めてとかいうきかっけを与えてたりするんですけど、それが流れなかった場合とか逆に止めないでそのまま次の曲いっちゃった場合とか。

その時どうするかみたいな想定をちょっとみんなで共有してから臨むみたいなことをやってた時期もあったくらいで。

常に何かそういうことがあり得るっていう想定をしながらやってるところはあるので、あんまり安心してみたいなことがない。

なのである意味ずっとトラブルです。

殺陣の地位向上に関わりたい

殺陣が市民権を得ていない

殺陣っていうものが、そんなに市民権を得てないんですよ。実はまだ歴史が100年くらいしかなくて。

お芝居とか映画などのツールというか、付属物的なものでしか扱われてないのが現実だと思うので。

でも僕は殺陣って単体でちゃんとエンタメとして成立するものだと。殺陣の地位が世界的にもうちょっと向上してほしいと考えています。

子供たちに教えたりしたいですね。殺陣ってハードルが高いイメージがあるのか、なかなか習い事感覚で始められないんじゃないかって思う人すごい多いんです。

でもそんなことなくて、それこそチャンバラやってみたいっていう興味だけで、習い事やレクリエーションレベルで気軽に踏み込んでほしいですね。

子供のときのチャンバラごっこをもうちょっと体形づくりして、安全で楽しめるようにっていうものがスタートなので、ほんとに気軽に始めてほしいです。

それこそ柔道教室、剣道教室とか、子供の習い事のメインの有名の中に殺陣が入ってくれたらいいなと。

殺陣っていう言葉自体が気に入ってなくて

殺陣って言葉自体が僕、ほんとはあんまり気に入ってなくて。

殺すに陣形の陣って書くんですけど、字面がまあ怖いじゃないですか。

この字面を見て、よし殺陣を始めてみようとか、ライトに考える人は絶対にいないと思うんですよ。

自分で教えたり、普及ってことを真剣に考え始めた時期から、何とかなんないかなこの言葉ってずっと思っていて。

遊びの延長線上くらいで殺陣を始めるのも、僕はありだと思ってます。

殺陣界ではたぶんこれ聞いて怒る人もいるんですよね。

精神論とかきっちりやってるところもあるので、それを僕は否定はしないし、どんどん突き詰めてくとそこに到達するということは分かるんです。

ただスタートからそんなに門戸を狭くする必要はないと思っていて。

まずは興味持ってもらって、剣とか着物とかかっこいいなとか、イメージだけで始めてくれていいんじゃないかなと思ってますし、そうあって欲しい。

これからも殺陣の未来に関わっていきたいですね。

まだ自分が真髄まで深められていないので、もっと自分が深まってくる一方で、殺陣の地位向上に貢献したいと思っています。

扉を広げる役割

男子なら誰もが子供の頃に遊んでいた『たたかいごっこ』。そのまま大人になって、たたかいを続けている。

国や世代を超えて、彼ならではの表現をきっと見せてくれるのだろう。

殺陣文化はまだ開かれたものではないかもしれない。ただ村尾氏はその扉を広げる重要な役割を担っている。

INFORMATION

村尾敦史オフィシャルサイト

Sword Performance Team 偉伝或~IDEAL~

 

RECOMMENDこの記事もオススメ