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戦略的パンク起業家 江川樹

MUSIC

2019.1.24

多くのティーンエイジャーの心を掴んできたパンク。

いつの時代もパンクロッカーはファンのヒーローだ。

「平成パンク」を掲げるパンクロックバンドLABORATORY’Sのフロントマン江川樹もその1人。

キャッチーなメロディーと歌詞が織りなす独自のパンクミュージックと過激なパフォーマンスを披露する彼。

果たして聴き手や時代に何を求め活動しているのか。

彼の素顔とその真の意図を問い明かすべく、平成紀末が迫る年の瀬にインタビューを敢行した。

はっきり言って自分はミーハー

カップラーメンやインスタントラーメンみたいなもの

子供の頃、小学校のぐらいの頃からマイケルジャクソンとかが好きでさ、パンクバンドって結構コアなファンからプレイヤーになる人が大半だけど自分は違うんだよね。そういう人たちと比べられると遙かにミーハーで、要するに無学ってこと。

有名なパンクバンドのこととか全然知らないもん(笑)

たまに「このバンドいいよね」とか言われても全然聞いたことなかったりする。その界隈じゃ有名なんだろうけど、自分はパンクって体裁は人の目を惹きつけるために選んだだけで…全然根っからのパンクロッカーじゃないんだ。

なんていうか…カップラーメンみたいなものかな…自分がやってるパンクは。

650円でその辺でやってる全国チェーンの家系ラーメンみたいにパンクスがやってるとしたら、自分は本当にそれっぽく麺と汁があってそれっぽく感じるパンクやってるから。

ラーメンって絶対’’通’’っているでしょ。ラーメン毎日食う人みたいな、ああいう人たちからしたら絶対論外だと思う。ふざけんじゃねーよって思われるかもしれないけど(笑)

敢えてそれを意図としている感じがするな、自分の中ではそれでいいと思ってる。

ニーズは’’通’’お前らじゃねーよ、っていうこと。

無学なりにやっている

自分がやってるバンドって全然アウトローな人がいなくて…本当だよ?

見た目からは信じられないだろうけど(笑)

みんな各々のポップスを聴いて普通に育ってきたんだよね。もちろん自分が一番そうだと思ってるよ、今やってる曲にもそれがちゃんと反映されてる気がするな。

自分の根底はポップスだと思ってる。

高校生の時はそれこそありがちなガールズバンドでギター弾いてたし。それで食っていけると思ってた。

結局そのバンドは解散しちゃって、1人で弾き語りやってたんだけど、そのころは宙ぶらりんていうかなんていうか、はっきりと定まってなかったんだよねきっと。それで1回高校卒業したあと英語の専門に行ったんだけど…これが全然ダメだった、1年でやめちゃった。最後のテストでgirlの綴り間違えたし(笑)

そのころに今のバンドのメンバー揃え始めてビジョンが見えてきたっていうか。そこで初めてパンクとかやり始めたんだ。でもバンド組んだ後になって流石に無学じゃ話にならないと思ってオールドミュージックなりなんなりを勉強しようと思った。

暇な時間にあのバンド結構良いんじゃない?みたいなノリで中古CDショップ行ってセックスピストルズ聞いてみたりして、そうやって無学なりに活動の水面下でインプット&アクションしてる。

広く浅く消費する

パンクってすごい筋金入りで’’こだわり’’っていうものを強く押し出してる人が多いと思う。そういう人たちと比べると自分はすごく打算的で、ミュージシャンあるあるな詩人気質じゃないんだよね。

本当に全然違う。やっぱポップスが柱なんだよね。

だからこそキング・オブ・ポップスなマイケルジャクソン聴いてきた、中学生の頃はONE OK ROCK聴いてたし。今自分が20歳でちょうど流行ってたんだよ。

うん、そうだね、当時の自分のロックって 言ったらワンオクだな。

でもやっぱりワンオクをルーツにしてますって言ったらみんな普通に笑うし、当然っちゃ当然か(笑)

ルーツ被ってる奴らは「嘘でしょ」「冗談でしょ」みたいな反応する。でもそれが本当なんだよね。他にもラッドみたいなそこらへん歩いてる中学生がイヤホンでなんとなく聴いてるようなアーティストを自分もなんとなく聴いて、なんとなく音楽を消費してきた。

「現代の」っていうか平成デジタル世代の若者らしいでしょ。

ブルーオーシャンを狙ってパンク

ポップスはよく消費される

本当にポップスってよく売れるよね。

自分自身も人並みにライブハウスとかフェスとか言って消費してきたけど、無難だよねポップスって。簡単に想像できると思うけど、ああいうバンドのフロントマンって熱いMCやるじゃん。「俺はさぁ!」みたいな。

自分もそういうのに憧れてた時代があったな。でもやっぱり憧れる人が多い分倍率が高い。似たり寄ったりだけどみんな歌上手いし、パソコン使えるし、そもそもセンスがいい。そんな中に混じったら勝ち目ないじゃん(笑)

それこそ宝くじ買うようなもの。だからこそパンクは自分にとっての正解で、90年代ほどバンドの数もメジャーでやってる数も少ないし、第一に自分は音楽家じゃないと思ってるから、じゃあ何者なんだって聞かれると…そうだな、表現者っていうか役者かな、音楽役者みたいなテイスト。

自分がやりたいと思う音楽をやっていきたいんだっていう出だしじゃないからさ。

自分は音楽活動で10年計画みたいな、読んで字のごとく「ご飯が食べたい」っていうコンセプトで音楽始めたんだ。音楽が好きだ、音楽がしたい。もちろんそれもあるけど、ていうか本筋だよねミュージシャンなら(笑)

だからありがちにバンド組んで「俺はこれしかできねーから、これをやるんだぁ」みたいな感じで夢追い人になるんじゃなくてさ、それこそベンチャー企業みたいな感じ。

「これでお金にしたいなぁって」感じ。決してお金が作れるジャンルではないけど。ニーズが少ないんだよね、今のバンド界隈って。

個人的にパンクはダサいと思っている

本物のパンクってさ、なんていうか言葉選べなくて申し訳ないんだけど…

基本ダサいんだよね。

自分は本当に浅いパンクやってるからって偉そうに言うことじゃないけど。自分は売れてない姿が何よりもダサいと思ってる。

客が10人くらいしかいない小さな箱で伝統芸能みたいに魂叫んで、出番が終わればウェイウェイやってビール飲んでさ、結局売り上げがマイナスで清算。4人で2万くらい払って次の日朝からバイトに行く。

30歳間近の男が非正規雇用で毎週そんなことやってるなんてダセーじゃん。それがパンクの本質だと思ってるけどね。格好いいと思うかダサいと思うかはその人次第だけどさ、自分は普通にダサいと思う。

自分的にそういう人は自堕落なフリーターだと思ってる。そんな風になりたくないしそう思ってるから自分は本当に格好いいアーティストになりたいと思ってる。反面教師になってもらってるのかな…本当に偉そうで申し訳ない(笑)

だからこそ格好いいパンクロッカー?みたいな人。多分まだいないんじゃないかな。そこに勝機っていうか、売れる?成功する?みたいな気持ちがある。

お花畑的な話に聞こえるけど。

要するにダサいパンクはレッドオーシャン気味でさらにお金にならない、だけど格好いいパンクはブルーオーシャンでお金になると思ってる。

パンク戦略は自分の尺度で

戦略的にパンクやってる人って少ないっていうか、まずいないと思う。

そういう戦略的なところがダサいって言う「俺たちパンクやってます」みたいなライブハウスでよく見る’’パンク界隈のメインの人’’とか、そういう人たちに対する反骨精神っていうのかな…それ故のまっすぐなところっていうか、はっきりと’’自分’’を持ってるていうのかな…そういう部分は自分にしかないと思ってる。じゃないとパンク界隈どころか音楽業界で生き残っていけないしね。

こんな考え方でも自分はセンスあると思ってて(笑)

自分で出来る範囲でぐちゃぐちゃにこねくり回して、ひねくれて本流に立ち向かって考えているというより、自分はパッと自分的に正解だと思うことをすぐに考えつけるっていうかなんていうか、素直なのかな、思考回路がシンプルに完成してるのかな自分専用に。自分は日本人なんだけど、日本人お得意の建前が無いっていうか。

自分尺度の黄金比が判ってる、だからなんでもできるんだと思う。

自分の中でこれがストレートです、ていうのがあって、だからダサいって言われたら「売れてないお前らがダサい」って言えちゃうし。危険ではあるけどね(笑)

こういうところがいわゆる自分の「ロック」なところなのかな。

でもやっぱり自分の音楽はパンクっていうよりポップスに近い気がする。自分の中ではパンクのつもりでも客観的に見たら全くパンクじゃない気もするし。

本当に難しいんだよね、音楽に限らず何かモノを造るって。

だからこそ肝が座ってるっていうか、何でも屋みたいなノリが板についてきた。

よくない例えかもしれないけど今ここに男色の人がやってきて「トイレで1発ヤったらデカいフェス出してやるよ」って言われたとする。本当にありえない話だし、褒められた例えじゃ無いけど。そうなったら絶対やるし、上手くやっていくためじゃなくて、その行為にニーズがあるならなんでもできるんだろうね(笑)

他のアーティストはなんでもはやらない、人並みに羞恥心があるからなのかな。

あとは多分「俺はこうだから」と思ってるから。アーティストとして悪いことじゃ無いよね。

でも自分はその逆、極端に受け身なんだ、カウンターカルチャーやってるつもりだけど本筋のメインカルチャーを受け止めてるんだと思う。

パフォーマンスは視覚と感性に訴える媒体だ

政治思想とパンク

歌詞は人並みに持っているロマンチズムを使って書いてる。

メインの音楽とか作曲とかに関しては結構打算的にやってる。

おいおいって感じだけど(笑)

パフォーマンスで新聞を破ったり食べたりしてるんだけど、あれって最初は視覚的に観て面白いかな、話題になるかなって思ってやってみたんだよね。広告とも言えるのかな。

でも…どうかな、今考えてみると多分自分の不満みたいなものもあるんだけどね、本当に少しだけ、10%くらいはあるのかもしれないけど。それを1歩弾いたところで消化してるのかな。

それで新聞を破る歌を書いたことがあって、その時ちょうど◯友学園が話題になってたんだよ。Twitterでめちゃくちゃ流れてくるから自分も知ったんだけど。そこでおっさん達の不毛な議論に「うちは〜」みたいなギャルが混じってるの見て「なんだかんだで若者も政治に少しは関心があるんだな」と思ったんだよね。

政治思想とかは人それぞれだし、年齢だって関係ない。自分もそこまではっきりとは言わないんだけど。それこそ若者らしく(笑)

その時客観的にみてさ、これは流行るなーって思ったんだよね。当時の若者たちって結構知らず識らずながらも政権を支持してたし、比較的にね。

当時のそのことを言及してた野党の主張がダサかったんだよね。振る舞いとか言い方とか。見てて腹が立った。

なんかパッと見で10代20代の支持率が与党にあったのはそういうとこだと思った。なんていうか子供とか若い子が嫌いなタイプの大人ばっかりだったんだよね。どうしようもないことだけど。

親とか学校の先生みたいな、当時声のデカかった女性議員とかがすごいヒステリックババアみたいな振る舞いをしてたんだ。自分自身そういうところはダサいと思ったし。政治家もなんだかんだで若者味方につけないと厳しい世の中なんだよね。彼らの真意は置いといて。

そこで若者として自分が思う「ダセーな」って思う自分なりの感情でインスピレーションを促してみて、それを曲にしようかなって。

一応音楽、ていうか自称パンクやってるから(笑)

なんていうかパンクを勉強していくうちにパンクは政治も噛むことを知って、なら自分の尺度でやってみようと思ったんだ、曲だけじゃなくて自分のスタイルなりに舞台の上でパフォーマンスでもやってみた。毎回特定の新聞社を破いたりしてるんだけど、嫌いだから、でもその度にそこの新聞買わなくちゃいけないんだよね(笑)

本当に嫌なんだよね、変なジレンマだと思ってる。

観てもらいたいのはティーンエイジャー

自分なりに考えをこねくり回してたどり着いたのがパンク、だからこそなのか自分の声は妙に小さい。

基本受け身だからね(笑)

逆にティーンエイジャーが持ってるツボみたいなところも発見できたんだ。パンクのツボって言ったらいいのかな。実際に結構ライブにも高校生くらいの子が来てて自分でもびっくりする。自分でもよく判らない’’何か’’が届いてるんだと思う。

自分も人並みのロマンチズム的に年中ワンレン掻き上げて夜でもグラサンする姉ちゃんだったり、いい歳こいてパステルカラーの短パン履いてるプロデューサーのおっさんに何か期待をかけるよりかは自分と同世代とか年下の人の割とフレッシュな層に自分の人並みの惚れた腫れたを伝えたいんだよね。

特別何かして欲しいわけじゃない、人並みに聞いて欲しいし人並みにそれぞれ感動して欲しい。自分のロマンチズムはちゃんと動いてるぞって知って欲しい。

狙ってるニーズの土壌はそこ。

結局10代の頃格好いいなって思ったのミュージシャン達がルーツだし、単純だけど。自分もそこになりたい。フレッシュだからその分複雑な解釈なしで感じ取ってくれると思ってる、なぜそう思うかって、そりゃ同じポップ育ちだから。

平成を終わらせたくない

このインタビューの翌日にレコ発ライブがあるんだけども、次に何をしたいかっていうのはもう決まってる。結論から言うと平成が今度終わるでしょ?それを阻止したい。1日でもいい4月30日に終わるっぽいのね。それを5月1日とか5月2日、本当少しでもいいから遅らせたいんだよね。

本当に本気でそう思ってる。真に受けてもらって構わない。今まで自分がしてきた発言から、ニヤってしてくれもいいんだけど。ワクワクしてくるでしょ?自分的に次はそういうところかなって思ってる。

他にもSNSを媒体に面白い現代エンタメをやってみたい。

自分の中でやってるのは親戚?だかに平成が終わるのを阻止しようとしてる団体を作ってるらしいんだよね。面白いから1枚噛んでるんだけど。そういう活動を駅前とかでやってるんだって。そこに力を貸してくれって言われてるんだ。やってることは自分が生まれる前にあったような学生運動みたいな闘争のミニマル版だけど。血が流れるわけじゃないし。

とりあえず自分が大好きなTwitterとか使ってそいつらと手を組んで、平成を終わらせるのを1日でも長く食い止めてみようと思ってるんだ。

ロマンじゃなくて活動家的な意味合いで。

SNS上でのアート活動とも言えるよね。嘘か本当かわからないところを本気のライブだったりTwitterで現実と作り話がごちゃごちゃに絡まって出来るカオス的な何かって現代だから出来るアートかなと思ってる。

だからこそここに、ていうかここぞみたいなノリで自分のパンクを盛り込んでいきたいな。上手くいけば平成に名前が残るかもね。

戦略的パンクロックの行く末

レコ発ライブ前日の夜ということもあり緊張と高揚感に目をギラつかせながらインタビューに答えてくれた江川氏。

奇抜で浮いた考えと地に足をつけた雰囲気はどこかで日常を夢と置換して生きているように感じられた。それもまた彼が日常の中に存在する’’舞台’’の上で形無き’’何か’’を表現する’’役者’’であることを自覚している現れなのかもしれない。

成功者はいつまでも夢を持っている人が多いと耳にすることがあるが、彼はどうなのだろうか。誰も予想だにしないような結末を自分尺度的な黄金比率の連続性の彼方に見据え、心の奥底で密かに奇を衒う機会を伺っているのだろうか。

バンドブームが袋小路に迷い込み、アイドル全盛の時代が訪れているこの平世紀末。

果たして彼のパンク事業戦略は現代のティーンエイジャーたちに何か意味のあるものを伝え、日本の音楽シーンに横穴を空けることが出来るのか。

彼の事業がさらなる大舞台に上場するのはそう遠くない未来なのかもしれない。

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