美容師を生業としながら、もう一方では日本最大級の音楽フェスや有名アーティストのカメラマンとして、二刀流の顔を持ち合わせているyukubo氏。
それぞれの分野で名を残し活動できるのはなかなかできることではない。
『美容師×カメラマン』
彼はなぜ二刀流の生き方を選んだのか? いかにしてその2つで生きているのか?
それぞれの世界で見てきたもの、知り得たことで変えていきたいことや、これからの野望について熱く語ってもらった。
「キッカケは好きと自分でやりたい気持ち」美容師とカメラマンになるまで
ドレッドヘアをやりたくて遊び気分で始めた
そもそも美容師1本でやっていこうとは全く思ってなかった。
もともと色んなカルチャーが好きで、バンドでギターを弾いたり、スケボーもやったりしてて。
高校生の時ドレッドヘアだった事もあって、なんとくなく将来は美容師をやりながらクリエイティブなことでもしたいなって、ぼんやり思ってたんだよ。
もちろん美容師のスキルは極めたいなって思ってたんだけどね。まぁ美容師を目指したきっかけがドレッドヘアだったから、ドレッド専門のお店を探してたんだ。
ドレッドだけじゃなくてアフロとかコンロールとか、特殊な髪型にフォーカスした専門学校が日暮里や渋谷にあって、いまではそこで講師としてもお仕事してる感じ。だからヒップホップとかバンド関係の人たちと一緒にお仕事する機会が多くてさ。少し変わった面白いテイストの人たちと一緒にお仕事してる。
俺はどうしても外に出たかった
美容師って、ずっと1つの箱にいてお客さんを迎え入れてっていう感じがするよね。俺はどうしても外に出たかったんだよ。それで外部で仕事を始めた。講師の仕事をしてると、雑誌のスタイリングのヘアメイクだけのお仕事とかをもらえたりするんだ。
それで人の写真を撮ってるフォトグラファーの方からお仕事をいただくことが多くて、その作品のヘアメイクとして立ち会うことが結構あったんだよ。それ見てて美容師としてもポートフォリオ作りが必要なんだってことに気づいた。
それで美容師としての作品撮りを始めたんだよね。その時って、自分でフォトグラファーとモデルと衣装を決めて「どういう感じの写真を撮るか」って全部ディレクションするんだよ。
でもそれが雑誌に出たら「フォトグラファー:〇〇」って、それだけ書いてあるわけ。
俺の名前は全く無くてさ。俺がディレクションしたのに誌面ではフォトグラファーの仕事になってるのが悔しかった。
もちろん自然な流れだし、当たり前なんだけど、なんか俺の仕事なのに読者には伝わってないのが嫌だったんだよね。それで自分で写真を撮りたいなって思って、フォトグラファーも始めることにしたんだ。
趣味のSNSが仕事に
ルールの範疇で遊ぶのがすごく楽しかった
美容師として作品撮りを始めて2~3年経った頃に「Instagram」が盛り上がってきたのかな。Instagramって4、5年前とかは「フォトグラファーが仕事以外のプライベートショットを投稿する場」って感覚になっててさ。
それでInstagramを使って、フォトグラファーの友達とかと一緒に作品撮りしてたんだよ。Instagramの方がルールが多いから「画質が劣化する」とか「1×1で四角形で伝えなきゃいけない」とか。そのルールの範疇で遊ぶのがすごく楽しかった。
もちろん一眼レフもいいんだけど、iPhoneでその場で撮ってちょっと加工して投稿するってのも面白いんだよね。同じ制限内だと同じディテールで戦えるしさ。それで仲間がたくさんできて、外国人さんのフォトグラファーが日本に遊びに来る時とかにInstagramで「日本の面白いスポットを紹介してくれよ」って依頼がきたりするようになった。
Instagramを通して、いつもとは違う観点からカメラと向き合い始めたんだよね。
空間とかライブシーンを撮ることが急に求められ始めた
「Instagram JAPAN」っていう会社があって、その人たちともよく絡んでたんだ。それで4年前にその会社からサマーソニックのフォトグラファーの依頼を受けた。それまでの「人をスタイリングするような仕事」じゃなくて「空間とかライブシーンを撮ること」が急に求められたんだよ。
ぶっちゃけ「やべ。わかんない」って(笑)。
でも、もともと好きな世界だったしさ。カッコいい写真とか、欲しい画とかはイメージできたんだけどね。
いま思い返すとそのサマソニがきっかけでCrossfaithとも出会えたな。当時モードステップってバンドが好きでさ。モードステップの写真をちょっとひいきして撮ったんだよ。選りすぐりの作品を渡したら彼らが気に入ってくれて、HPで使ってくれたんだよね。
それで、モードステップとCrossfaithってレーベルが一緒だったらしくてさ。モードステップの写真のクレジットから辿って、自分のInstagramを見てもらってたらしくて、Crossfaithから「lookbookを撮りたい」っていう話がきたんだ。
スタジオ撮りっていうより、ロケ撮りで東京のいろんなシーンとか、いろんな場所を撮るっていうスタイルが彼らにヒットしたみたい。それでプロジェクトがスタートしてから今3年目くらいかな。今では海外からの案件も結構受けているよ。
「両方やっててよかったな」マルチさを評価してくれる時代
感覚はなるべく共有してチームで動くっていうのが今の課題かな
「大変だな」って思うことはいろいろあるよ。最初は髪の毛もメイクも写真も自分でやるっていうのがホント無理でさ。
撮影の時間、スケジュールが長い日だとずっと気を抜けないんだよね。自分の写真の迷いひとつで全ての工程が押すからさ。みんなを俺のエゴに付き合わせちゃってる感じ。やっぱり迷惑になっちゃまずいなって思ってる。アシスタントとかを連れて、感覚はなるべく共有しながらチームで動くようにするっていうのが今の課題かな。
カメラ一本の仕事の時はひらめきが大切。
「香盤表はこうだけど、こっちでいっちゃおうよ!」みたいな、自分が提案できることは考えておきたいね。ヘアメイクだけの仕事でもだいたいフォトグラファーと一緒なんだよ。それで現場でフォトグラファーから「久保くん、今回ロケ地だから、メイク映えする時とかする場所とか提案して貰えると嬉しいんだよね」とか依頼受けるんだけど、そういう時は無責任に提案しまくっちゃう(笑)。
でも全部自分でやる場合は「あ、やべ。こっちの方がいいかも」って思っても「スケジュールが全部ぶっ壊れる」って思うと、提案できなくてさ。そこが二刀流だと難しい。
広く見えてることが一番自分の武器
でも今は本当にマルチさを評価してくれる時代だよ。
ミュージシャンが写真とか絵とか、いろんな場所に触手を伸ばしてるよね。それに近い感覚で仕事をしててさ。「これは俺の仕事なんだ」って胸張って言いたい瞬間があるからね。マルチに視野を広げて見えてることが、自分のイチバンの武器じゃないかな。
フォトグラファーは、自分のカラーを好んでくれた方から依頼してもらえることが多いね。その感性を成長させながら人に評価されるような時代性もしっかり把握しながら撮る。
自分らしさが常に画に出るような写真を撮るのが課題かな。
美容師の仕事は、ひと月に250人くらいの髪を切らせてもらってる。色んな人と会うし、写真関係で出会った人も来てくれたりするね。
たとえば「いろんな情報」は常に持ってる。
情報を共有したり交換したりできる美容室作りが、俺にとってもお客さんにとってもプラス要素なんだよ。それで定期的に2カ月に1回とか、1カ月に1回、僕の所に行こうって思ってもらえるような存在になろうと。
自分がやっている写真とスタイリングをコンセプトに立て直していきたい美容師業界
美容師って現場にいる瞬間が一番カッコイイんだよね
いま、実は美容業界に凄いうんざりしてしまっているんだよね。
僕らの世代ってカリスマ美容師がトップにいてさ。雑誌を見ても、美容師ってショップ店員さんより上のポジションにいた。いまでも、美容師ってオフの日にフォーカスが当たるんだよ。「美容師の日常」とかさ。
そうじゃない。美容師って現場にいる瞬間が一番カッコイイんだ。でも美容師さんは現場を取り上げられないし、憧れられる職業でもない。美容師さんもいなければ美容学生もどんどん減ってるっていう時代。
だから俺は今の美容業界を盛り上げるために仕掛けたいなって。
同世代の美容師の友達とか、当時カリスマ美容師って呼ばれてた人たちを広告塔に、美容界を盛り上げられるプロダクトか、ブランドを立ち上げたいなって考えてる。
コンセプトは「美容師をカリスマ的存在だった職業に戻す」
コンセプトは「美容師をカリスマ的存在だった職業に戻す」ってこと。近々に美容師のためのプロダクトかブランドを立ち上げるつもり。
lookbook撮影やヴィジュアル的なノウハウもあるからね。
具体的に言うと、例えば当時シザーケースをつけてると「美容師ってカッコいい」って思われてた時代があったじゃん。あとトラディショナルな雰囲気のバーバーショップの店員ってエプロンで仕事するよね。そういうエプロンとかシザーケースを、ファッションブランドとして成り立たせちゃうようなプロダクトとかブランドをつくっちゃおうかなって思ってる。
「美容師=裏方=地味」じゃなくて、派手なことをする職業だって考えてるからね。
カメラに関しては、これからスチール磨いていこうかなぁって。
今は動画のシーンがすごい成長しているんだけど、 スチールは消えないだろうね。動画にはできないスチールならではの世界があるから。まぁ時代のニーズに合わせるし、必要に応じてスキルを磨いて、もっと冒険もしていこうと思っているんだけどね。
アクティブに外に出て活動してみたい
二刀流で活動されている久保氏。筆者が感じたことは「優しくも真っ直ぐな想い」である。
やりたいことが複数あったとしても、1つに絞らなければいけないという時代背景のなかで、久保氏は二刀流という生き方を選んだ。マルチに活動してきたから見えたものや、わかったこと、感じられたことがある。「好き」という気持ちがあって、情熱があったからこそ、美容師と写真家を続けられるのではないだろうか。
また、yukubo氏はInstagramで世界を広げた。「始めたての時はフォロワーは0でした。でもやっていくと増えていったし、今は1万5000人以上いますよ!」と笑う。
これは今の時代背景だからこそ、色んな人に思いがけないチャンスが巡ってくる。これから美容業界を盛り上げたいと言う久保氏。よりアクティブに活動していくであろう彼の今後にも注目していきたい。
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