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「この街を一緒に、作り上げていく」アルルカン栗須氏

FOOD&DRINK

2018.10.29

渋谷からすぐの池尻大橋。点々と多くの飲み屋が賑わいを見せる。

そんな中に落ち着きの空間にもアットホームさを兼ね備えたBar アルルカンがある。

良質な音楽、多種に渡るウィスキーとビール、ダーツ。そして今日も、お酒を嗜み、店主の栗須氏との会話を楽しむ人々が相見える。先日5周年を迎えたアルルカンに潜入した。

音楽が繋いだ原点

斜め45°の角度からギターに対する、音楽に対するアプローチ

東京に来たきっかけは、ギタークラフトの専門学校に入るため。だから自分がバーテンダーやるとは思いもしてなかった。

高校生の時にバンド始めて、3年ぐらいの時にちょっといい楽器を買おうと思って。ネットでいろいろ見てたら、ギタークラフトっていうワードが出てきて、なんだこれおもしろそうだって。夏休み使って体験入学に来たところ、どハマりしちゃったね。先生たちがめちゃめちゃかっこよかった。

そこからものづくりっていう方向に興味が行っちゃった。楽器や音楽に対して、バンドよりも、ギターやベースを作りたいっていう、ちょっと斜め45°の角度からのアプローチで入った、っていうのが実際きっかけ。工場で働きたいわけでも、楽器屋で働きたいわけでもなかった。今思えば純粋に、先生に憧れたっていうのがあったのかも。学科長がドレッドやったからね。

自分の分野を確立させようと

工具や刃物の仕立てから、工具や機械の使い方まで一通り学んだ。塗装や組み込みまで自分でやれるようになった。

就職の時期になると、学科内に講師の求人が出るのよ。みんな、やっぱ講師になりたがる。けどやっぱしゃべりと技術と、ある程度の知識がないと難しい。多分楽器を作るのがうまいだけじゃ、適正には向いてない。コミュニケーション能力がないと教えることができないし。そういう意味ではなかなかハードルが高かった。

5次試験ぐらいまであるんだけどね。どんどんふるいにかけられたけど、講師になった。20代前半やったから、とりあえず技術と圧倒的な知識量で、自分の分野を確立させようと思ってた。

ギター出身でギターを作る先生が多い中、俺の得意分野ってべース。特に多弦ベース、ハイエンドベースっていう1本すげえ高いような値段のモノ。実際に店に行ってベース弾かせてもらった。「こいつぜってー買わないだろ」って店の人に思われながら。色んな所こねくり回して見てた。

あとは学生から音楽を学ばせてもらった。彼らから聞かなきゃ話できないし、聴いてるアーティストがどういう楽器に使ってるだとか色々知らなきゃいけないからいろいろ聴きまくったな。

それからクラフト講師をやってる間に、恩師と呼べる方と出会えて、その方に感化された。それで将来的にお酒と音楽を一緒に、ライブバーやりたいなって気持ちが芽生えて、っていうのが今の始まりかな。

熱量が違うな

その後、専門学校の講師を辞めて、高いお酒しか置いてない高級クラブで、「本当にいい酒」っていうのを学ばせてもらった。でも東京喧噪に疲れてしまい、実家に近いところに帰ろうと思って、名古屋に行った。

それで、百貨店のアクセサリー屋さんで拾ってもらった。高いアクセサリーだったから、今やってるバーよりある意味シビアな接客が求められたかな。一応結果は残してたから、店長になれって言われた。

店長になったら学べることもいっぱいあったかもしれん。でも店長はプレイヤーじゃない。売ることもできん。基本的には自分はプレイヤーでいたかった。それと、やっぱりどっかのタイミングで飲食の方に行こうと思ってはいた。

1年半名古屋に住んで思ったのが、東京の人たちはやっぱりハングリーさや熱量が違うなってこと。東京におる時は気づかんかったけど、あえて外に目を向けた時に、その温度差をはっきり実感した。東京にいたあの時の自分も、そういう気持ちだったんかなーって、改めて。

やっぱ東京はそういう風にエネルギーに溢れた街。良くも悪くも。「東京じゃないとダメだ」「地元帰るんだったら老後でええわ」って思った。

2度目の東京で掴んだ自分の居場所

チームが少し煩わしかった

25、6歳で、東京戻ってきてすぐのタイミングで、東日本大震災があった。その時は面接どころじゃなかった。半年間ぐらい適当なバイトしてたけど、さすがにこのままじゃ自分が腐るなと思って、居酒屋で働き始めた。

そこにお客さんで来てたのが今のバーのオーナー。オーナーと出会ったのがきっかけで、バーに行くようになった。最初はメニュー開いてひっくり返りそうになったよね。居酒屋だったら3杯飲めるぞって。ウイスキーとかもうカッコつけだけで飲んどったからね。

働いてた居酒屋は、すごい良いお店やったしお客さんも良かった。ただその時はチームが少し煩わしかった。もちろんチームだからこその良さもある。ただ、自分がまだ尖っとった。接客1つにしろ配膳1つにしろ、そこはそうじゃないでしょと思いながらやってた。

そんな時に今のオーナーから話をいただいた。全て一人でやれるバーテンダーがいいなって思った。初週から週6で入ってた。見習いを10ヶ月間して、今のここの店長でオープンした。いきなり一人立ち。

ジャケがかっこいい。あと飲んでる自分がかっこいい

個人的にウイスキーを1ヶ月に2、3本買って、自宅でいろんな飲み方を研究した。これがうまい、このウイスキーはどういう飲み方でどれが合うのか、とか勉強した。

店に置いとる以外のウイスキーで、できるだけいろいろ買った。「1杯飲んだところで、俺わからん」と思ってたから。ウイスキーって、たった1杯飲んで「美味しい」で終わるもんじゃなくて、「1本」飲んで初めて、そのウィスキーに対しての知見が広がるかなって思ってた。

働いてた居酒屋では、例えば焼酎、日本酒がすごい多かった。例えば焼酎ひとつにしても、ストレート、ロック、水割り、お湯割り、ソーダ割りっていう飲み方が変わるだけで味わいって全然違うから。ウイスキーなんかね、もっともっと繊細なもんやからなおさら。

ウイスキーって、地域によっても全然味が違う。「作り手がどういう気持ちでウイスキーを蒸留してたか」とかの作り手の意図も考えつつ、それに並行して、ウイスキーの歴史や使ったもの、樽、何年熟成とかも知ってこそ、本当にお客さんに自信を持って薦められる。それこそウイスキーの作り方、一から勉強もしたしね。

刺青とかタトゥーの形とかすごい好き。ジャックダニエルとか、ウイスキーってそういうのに近しいモチーフが使われているのが多くて。ジャケがかっこいい。あと飲んでる自分がかっこいいと思ってた。その時もウイスキーの飲み方はロックじゃないとカッコ悪いと思ってたの。それだから色んな飲み方して、勉強した。

それと、お客さんのシチュエーションに応じて、こっちも提案できるようにはしておきたかった。そこに合うウイスキー、合わないウイスキーっていうのもあるから。

ウイスキーは、時間の経過とともに味の変化を楽しめる。あとはお客さんのシチュエーションに合わせて飲み方を変えると、全然違うものにもなれる。例えば喉が渇いてる人だったらハイボールでガブガブ飲むのもいいだろうし。逆に冬場なんかはお湯割りにしてゆっくり体温めるのもいいし。

お店では基本、俺の好きなウイスキー並べてるだけ。ニーズに応えたらもっといっぱい置かなきゃいけなくなっちゃうし、置ける場所も制限あるから。

あと自分が好きじゃないと売り込めない。ダサいと思ったアクセサリーじゃ良いプレゼンができないように、ウイスキーも美味しいと思ってなかったらなかなか薦められない。

うちのお店に通い初めてウイスキー好きになった人も多いと思う。女性のお客さんとかは最初はウイスキーってあまり飲めないと思うし。

甘いカクテルとか飲んでたお客さんが、ウイスキー試してみるって言ってくれたら、それぞれのウイスキーこと教えながら薦める。ライトなやつから始めて、ちょっとずつ種類が広がって。やっぱ教えた人には、教えるときにその人の好みも分かるし、薦めやすい。「気に入ってくれそうなウイスキー新しく入れましたけど、飲んでみます?」みたいに。

ビールも多く揃えた。オープンする前、店のコンテンツを決めてる時にすごい勉強した。原価と味と種類のバランスを考えながら、飲み歩いた。40種類ぐらい瓶ビール置いてあるところにも行った。小麦のビール、ピルスナータイプの軽いやつ、クックドビールとか。バランス見ながら、偏らないようにラインナップは選定したつもり。

ダーツというツール

接客で気をつけていることは、聞きに徹するね、まず最初は。お客さんでも俺の中でタイプが色々あるわけ。待ちの人、攻めの人、中立とか。やっぱその人達の相性で席配置をどうしていくかっていうところに一番気を付ける。

今はダーツを置いて、これがお客さん同士のつながりに良いツールになってる。置いた理由っつったら、たまたま行きつけになった店にダーツがあったっていう話。

そのオーナーさんが俺の経歴を見て、この街でも音楽仲間が出来たと思って接してくれてた。そしたら俺はダーツの方にはまっちゃって。どハマりしちゃって自分の店にまで置いちゃった。

本来は家に置いて使うようなダーツなんだけど、クオリティは変わらんから店に置いても全然いいなと思いながらね。それに、さすがにダーツで金取らなくてもいいかなって思った。ダーツ目的でお客さんが来てくれたりするし。あくまで遊べるツールなだけ。

ウイスキーが苦手な人がちょっとずつウイスキー好きになっていくように、ダーツも最初全然興味なかったのに、こっちから「ちょっと投げてみます?」って声かけて。投げたらどはまりしちゃって、マイダーツ買っちゃうお客さんとか結構多い。

あとはダーツ繋がりで来るお客さんもすごい増えた。そういう意味ではだいぶプラスになったかな。店を知ってもらうの1つのいいきっかけではあるかなって思う。

ガチャガチャしてるとこが嫌いなお客さんももちろんいる。そういう時は、その日はちょっとご遠慮お願いしたり、その方達が帰るまでしばし待たれるという場合はある。常連さんだからお願いできるんだけどね。

逆に一見さんもダーツ好きそうだったら巻き込んでやることもある。そういうきっかけで常連さんになってくるっていうパターンもなきにし
もあらずだから、いいツールになってるのかな。難しいけどね。

この店だけっていうより、この街でやってるイメージ

最初の頃は、居酒屋時代のお客さんに助けてもらってた。心配してくれててね。それと、もうひたすらビラ配り。顔見て、ビラ配ったその人が来てくれたって分かったとき、本当に嬉しかったんだ。来てくれた日がビラ配った日の何日後だったとしても、やっぱ自分が配ってきた人の顔は覚えているから。その後も、2回目3回目来てくれたら、あーまた来てくれたって、本当に嬉しかった。

お客さんを本当に大事にしたいなって思う気持ちで接客できた。そこから月一回来てくれるお客さんが、2週に一回になり、週1になって。ちょこちょこを通ってくれてる。

あとはあれかな、ビラ配りと他店舗への営業回り。それこそ芸人さんとかアーティストさんとかもちょいちょい来たりするし。繋がりがあるような人が多いような気がする。

5年もやると完全なホームだよね。だから街歩けば同業者やお客さんに会うこともよくある。そういう意味で言ったら、この店だけっていうより、この街でやってるイメージが強い。

三茶、中目、渋谷の間やからさ。ある意味、村みたいな集落というか、すごい小さいとこやから。もちろん店は自分の看板やけど。だから仲間も多いし、池尻、三宿っていう街で働いてる感覚がすごく強い。

新しい店ができたら敵対視はしない。面白いなと思ったら紹介する。ホームベースがあって、そっから色んな所に行くっていうのは一番好ましいスタイル。そうしたら、いろんないいきっかけにもなる。

足使って、銭遣ってなんぼやって俺ら思っとるから。それでもちっちゃいとこだからさ。仲良いところでワイワイやるのもいいと思うし、いい店探して飲み歩いてもいいと思ってる。この街には良い店がいっぱいある。とりあえず今は10周年目標っていうのが1つあるかな。

好きだからこそ得られたもの

自分でできるのが良い

絵は元々好きだった。ギタークラフトをやるには絵をちゃんと描けなきゃダメだしね。

デザインを始めたきっかけは、完全にギタークラフトの講師してたことだね。製図って、設計図をまず手で描くの。講師になってくると、手描きのもんをバンって貼ったところで教科書に載っけらんないわけ。それでイラストレーターで自分で始めた。

それからはイラストレーターを使って色々つくり始めた。アクセサリー店の時も、イベント告知のチラシや店内ポップを全部作った。本来やと販促組部にお願いして納品してもらうものだけど、それだと手間かかるし効率も悪いから、その場で作ってた。好きでやっとったからいいけど。自分でやりたいな、販促部に行きたいなっていうのもあった。

上京してからはグラフィックの腕も随分あげてた。グラフィックだけで行きたかったけど、でもそれだけじゃ無理だろうなと思った。最初はアルバイトでバーテンダーやりつつ並行してやっていこうかと思ってた。

このお店のメニューや看板のデザインも全部自分で作った。こうやって経験が役立って、良かったかなって思ってる。

今でもちょいちょいやってる。例えば新しく独立する人の名刺やロゴデザイン。ほかには、パッケージ一式で、ショップカードから何なり作らせてもらったり。販促でステッカー作ったりもしてる。ちょこちょこ片手間でやってる感じ。

それでもやっぱ一番自分んトコの販促物やノベルティとか、チラシ諸々が多いかな。自分でできるのが良いところ。やってて楽しいし、これからもやっていきたいかな。

自分に対して問うところ

日曜日にアルバイトを1人入れて、休みは取るようにしてるけど、お店は回してる。休みの日も飲みにいったり、ここに飲みに来たり。日曜日働いてるバイトがシンガーソングライターの子で。その子がここを使ってライブやったりする時もあるしね。

普段がね、仕事っていう感覚でやってるわけじゃないから。お話ししながらダーツやって酒飲んで。なんちゅう楽な仕事だって。ある意味、誰しもができる仕事じゃないけど、そこは胸張って「楽しみながらやってます」って言える。1番の敵が暇だね。

お客さんが来なかったらやることないし、掃除してもそんな毎日毎日掃除するとこないし。でもやっぱりこのお店は自分勝負。いろんな人に対応するのにいろんな知識がいる。

自分がしてる仕事は、まず博学でないとできない。あとは話題のツボ、話の間の置き方とかがわかってないといけない。やっぱ相手が気持ちよくあることが前提。そこから、自分の土俵というか、得意分野もしつつ、全てにおいて自信がないと話ができない。

今思ったら、講師の時にそういうことを学んだのかな。学生にここってどうやってやるんですかって聞かれた時に、知識がないとそれに答えられないってこと。お酒だって、お客さんに「このカクテルって何が入ってるんですか」って聞かれた時に、わかんなかったら答えられない。

そんな「プロフェッショナルとはなんぞや」ってところが、自分に対して問うところかな。テーマだったったかもしんないね。好きでやっとるからこそ。

恩師の大先生が入学式の時におっしゃったのが、「好きこそものの上手なれ。」好きなやつはやっぱうまくなっていくの。お酒もそうだし楽器もそうだし、グラフィックもそう。そうやってこれからもやっていきたいな。

好きこそのものの上手なれ

好きだからこそ、そのモノに対してこだわり、真剣に向き合い、突き詰める。

思いが凝縮されたアルルカン。行けば、きっと感じることができるだろう。

ウイスキー好きにも、そうでなくても、是非彼の空気、お店の空気に触れてほしい。

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