街中を歩けば目にするペインティングされた壁や建物。
「なぜ、描くのか」と単純に疑問をもった経験はないだろうか。
その理由やグラフィックライターとしての面白み、発信し続けた先に何があるのかをSAYS氏に熱く語ってもらった。
グラフィティの世界に飛び込んで知れた世界
周りのダンサーが描いてたから真似したのが始まりです
絵は子どもの頃から描いてて、グラフィティにハマったのは中学生ぐらいだったかな。当時、ダンスをやってて、周りのダンサーが描いていたのを真似したのが始まりです。
当時、ノズルとか何使っていいか分かんなくてとりあえずホームセンターでスプレー買って、付属品のキャップで描いてたんだけど楕円になっちゃうの。それで「どうやったら丸く出るんだろう?」と思って仲間に聞いたら「グルービーワールド」っていう店でスプレーのノズルが売ってるって。
今考えたら、そこでの出会いが結構でかいんですよね。店員の林さんに「日本人はみんなこれ使ってるよ」ってグラフィティのノズルを教えてもらって。そしたら出方が全然違くてさ。ホントに衝撃だったなぁ。そっからもうなんか気持ちよくなってひたすら描き続けてる感じです。そのお店はもうなくなっちゃったんだけど、林さんには凄く感謝しています。
自分で好きな景色を作っていくのがすごく楽しい
自分で好きな景色を作っていくのがすごく楽しいよね。
例えば何にも無い山奥にいきなり壁ができてグラフィティがある。自分で描くことでその景色が変わるんだよ。そういう体験が気持ちいいし、写真の撮り方を考えるのも楽しい。「自分が間違いなくそこにいた」っていう足跡が残るのが快感なんです。
創作の時間はリーガルとイリーガルで変わってくるな。イリーガルの場合、お巡りさんが来るかもしんないし、完成できないかもしれないというリスクが常にある。
だからなるべく早めに完成させたいんだけどね。大体自分は平均で4時間ぐらいが目安かな。イリーガルの時は1、2時間で決める時があるし、逆にリーガルで時間はたっぷりあるよって時とかは、7時間とか8時間でもずっと描いてるみたいな感じです。
絵を描く時はいつも先に色を塗って、最後に線を引いてる。線を引くのが好きですね。最後の仕上げというか、そこに凄く気持ち良さを感じます。
後は綺麗なロケーションで仲間とワイワイ描いてる時。自分の絵がサンセットに照らされて、壁に浮かび上がってくるのを見た時は気持ち良いです。外で絵を描くグラフィティライターにしか味わえない感覚だと思います。
グラフィティ活動をしていくということはどういうことか
意外とお金のかかる趣味なんです
みんなが思っているより安いのかもしれないですね。昔は日本のスプレーが主流で、輸入品のスプレーってすごい高くて高級品だったんです。
でも今って時代が変わって、海外のスプレーの正規店が日本にあって昔に比べて安く手に入るようになったんですよね。逆に日本のスプレーがすごい値上がりした。自分がグラフィティを始めたときは『クリエイティブスプレー』っていうのが『アサヒペン』から出てて、そのスプレーが1本600円だったんですよ。垂れにくいし、すごい描きやすくて。当時はそれが日本のスプレーの中では主流でした。
でも、時代が流れてスペインの会社とかドイツの会社とかのスプレーが入ってきたんですよね。『クリエイティブスプレー』は今だと900円くらいかな。「ちょっと高いな」って思っていた時に、スペインの『モンタナカラーズ』っていうメーカーのスプレーが600円だったのね。
今ではレート上がって1本780円くらいなんだけど、それでも900円のスプレーよりは安い。そこでもう自分のスプレーを全部海外のものにシフトチェンジしました。
自分は、サイズ感がちょっと普通の人より大きくて使う量が多い。色はだいたい最低4色。プラス線を引くのに2本、縁取りで1本使って、全部で最低8本くらい。そっから差し色とか背景とかで結局、1個の作品を普通に描くのに大体6、7000円くらいになるかな。
サイズが大きくなるほど使うスプレーも増えるから、1万円超えることもある。意外とお金のかかる趣味なんだよ。自分はそれを最低週1回やるようにしてるから、毎月すごい勢いでお金が飛んでいくっていう(笑)
計算したことないから具体的な数字はわからないけど、洋服もなかなか買えないね(笑)
自分の世界を広げていく凄く大事なもの
ダンスとかグラフィティとかって、普通の生活では出会わない人ばっかりなんです。
たぶん一般の人脈って、学校とか職場から共有されていくじゃないですか。でもダンスとかグラフィティやってる人っていろんなバックボーンがあるんです!本当にいろんな世界の人から話を聞ける。それって普通の人じゃなかなか経験できないですよね。
自分の価値観が視野がすごい広がるんです!
自分も仕事関係の人と会話してると、ちょっと失礼になっちゃうかもなんですけど、この人の世界ちょっと狭いなって思ったりとかする事もあったりして。 人間って基本的には「自分の見てきたこと」しか理解できないわけで、だから世界がすごい広がるなぁって思います。
英語とかも片言の中学生レベルなんだけどなんとかなるだろって(笑)
「海外で描きたいなと思ってたときに、たまたま車で事故を起こされて、お金が入ったんです。
これはもう行くしかないって思って2018年の2月ごろに2週間くらいスペインに行きました。英語とかも片言の中学生レベルなんだけどなんとかなるだろって思って(笑)まあ、行ったらなんとかするしかないじゃないですか(笑)翻訳アプリとか使いましたね。
それでやっぱりスペインへ行って、自分の作品も進化したし、価値観も変わったし、すごいでかい経験をしたなって思いました。もっと若いうちに行けばよかった(笑)
自分が捕まったらどうなるかって想像したら怖い
何回か捕まったことはあるんだけど、最後は18歳くらいの時だね(笑)。
若かったから見境なく描いてて。コンビニに入って、本を立ち読みしてたらおまわりさんに囲まれてました。
描いているところを警察に見られてて「君、なんで声かけられたかわかるよね?」って言われて「わかります」ってそのままパトカーに乗せられて取り調べを受けました。まぁその時は自分で描いた落書きを消せばいいみたいな感じで、お咎め無しだったんだけど。
でもこの年になると捕まって、じゃあ法の裁きを受けてそれで終わりかっていったらそうじゃないじゃん。自分の社会的な地位がなくなるわけですよ・・・。仕事も独立してやってるし、お客さんがいるから自分が逮捕されたことを想像しただけで怖いよね。
昔に比べてリスキーなことはできなくなるけど、人として生きればそういう縛りはあるからさ。歳をとったら歳をとったなりの動きっていうのが大事です。グラフィティメインで動いてて何も支障がないならいいんだけど、そうもいかないんだよね。
グラフィティでこれからしていきたいこと
ゆくゆくはちょっと海外で活動したい
活動費のためにも頑張って一般の仕事してるけど、理想はグラフィティの仕事をもらって、自分の活動費に充てるっていう流れです。グラフィティをお金に変えると「フェイクだ」みたいなマイナスの考えを持つ人が多くて、なかなかうまくいかないんだけど。
でも自分としてはグラフィティでお金を稼いで活動の足しにしたい。本当はもっと活動したい。正直、日本をフィールドにしてると辛いからなぁ。やっぱり理解がないしさ、スプレーで絵を描いてると、即通報っていう。町の人の理解もやっぱりまだあまりないし。
だから、ゆくゆくはちょっと海外で活動したいって思っています。あとは、楽しさを発信したいですね。今のご時世、病んでる人が多く感じます。ネガティブな発想ばっかり飛び交ってるよね。
そうなる気持ちも分かるし、俺もそうなる時もあるけど、楽しいこと考えようよっていうポジティブなマインドを発信したいですね!!
今の目標の1つは『NIKE』と仕事すること
「グラフィティに固執しないでもっといろんな絵を描けば」って言われるんだけど、俺は自分が好きな絵を描きたいだけであって、それが今グラフィティっていうだけなんですよね。今描きたいものがグラフィティだからグラフィティを描いてるだけで、別に他の絵でもいいんです。
だからこれからも続けていきたいね。好きだから続けられる。あとは周りに影響を与えたい。
結構歳いってるんだろうなって思う人がガンガン動いてたら勇気づけられるじゃん。
俺も下の子たちが見た時に「この人、すげぇ」って思えるような存在になりたいです。
そういうの大事だよね。グラフィティライターの先輩に勇気づけてもらうことがあるんだよ。だから「辞める」っていう選択をしなかったんだろうね。「この程度で弱音吐いてどうする」って思う。自分の限界値を高めてくれる人たちが周りにいる環境は、すごく大事。今の目標の1つは『NIKE』と仕事すること。
自分の好きなブランドとコラボして仕事をしたい。自分みたいな人生を歩んでいると、いろんな人に後ろ指さされて「あいつクソだよな」とか言われるんですよ。「落書きなんかして」って。いろんな人から批判とかも浴びてきた人間が1つの企業とコラボして仕事するっていう、それってかなりでかいことじゃないですか!
あとはやっぱグラフィティ界の歴史の中に名前を残したい。人生一度しかないわけだから、自分の好きな世界で名前を残したいですね。世界的には何十、何百万人っていう世界だし、名前を残すって簡単じゃないけどさ。それができたら最高だなって思うよ。
『楽しいを表現し続け、リスクを背負いながらも夢を追い続ける姿』
「人生一度しかない中で、自分の好きなことをやりたい」「グラフィティの世界で名前を残したい」「自分で景色を創りたい」。
話すなかでいくつも印象的なフレーズが上がった。なぜ、街中や壁、建造物に作品を描くのか。そう思っていた私の疑問点は、今回、話を聞くことで解決したのだ。
「生きた証」を残したい。それは多くの人間が思っていることだろう。彼の言葉からも強く感じた。グラフィティとは、実際に話してみないと分からない世界だ。
実際に描かれた作品のお写真を見て、どれも色とりどりで面白く、外の世界に突如現れた美術館のようだった。
しかし、日本はグラフィティに対してどちらかというと否定的である。しかしこういうアートな部分が共存してもいいのではないのかと感じた。蓋をあけて知らない世界を知ることで理解できることは、きっとたくさんある。
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